さてこのblogは私の趣味100%のblogであるため、音楽系の話も徐々に増やしていきたいと思っていた。運良く良いLPレコードが入手できたため、まず最初にこれをネタに書いてみたい。
Twitterではちょいと呟いてみたのであるが、新品の格安LP playerを入手できたことから、本格的に我が家のaudio systemsの復活とLP recordの蒐集を始めた。そこでOperaである。※ちなみに私の大学の卒業論文はVerdiである。
Operaの全曲集となると2-3枚組LP recordで、大半がbox setであるため、かなり潤沢に存在する福岡市内の中古店にもなかなか存在しない。そこで通販になるのであるが、私の欲しい系は「現地の初盤」であるため、結局国内には殆ど存在しないのである。しょうがないので、eBayで探す羽目になるのである。こうなるとLP代金と送料が同じくらいという悲しい状況となるのだが、こればかりは回避ができないと諦めるしかなかろう。運良く国内にあったらいいのだが・・・
そこで最初にどうしても欲しい! と思っていたものがあった。VerdiのLa Traviata (椿姫)の史上最高の舞台と言われている、1955年Teatro alla Scala (イタリアのスカラ座)のCarlo Maria Giulini指揮のものである。
この録音はMaria Callas (マリア・カラス)とGiuseppe di Stefano (ステーファノ)のコンビと無敵のBastianini (バスティアニーニ)の父ちゃん役で有名なもので、1955年5月28日の初日の録音である。元々の録音が良くないらしく、それをどうにか聞けるように調整したらしきものがEMIからCDになって出ているのだが、まあとにかく評判が悪い。LP時代のはもっとマトモだった、との評価を至るところで見かけていたため、じゃあ聞いてみようじゃないか、と探すことになった。
だが、探し始めてすぐ分かったのだが、現在CDを出だしているEMIはLPを出していないのである。そもそも、この録音がどこから、いつ発売されたのかもよく分からんのである。書籍『歌劇場のマリア・カラス』も入手して読んだが書いてない(そもそも入手してないぽい)。
eBayや海外の各種Maria Callasサイト(主に英語とイタリア語)を散々探した現状の結論としては、初盤はどうやらItalia Cetraから1977年に出たbox setのようである、というところまで判明した。これはItaliaで発売された後、日本のキングレコードから1979年に日本でのプレスで出ているようである。折角ならばこのCetra盤が欲しい。
で、安価にあっさり入手できた。約10日で米国東部から到着である。おまけに(箱潰れ防止用に)カビだらけの交響曲のLPを2枚付けてくれた(これは清掃して復活したため別途保管中)。
中身はデカい説明書というか簡易写真集であるのだが、映像で殘っていない1955年のTeatra alla Scalaの舞台をよーく見られる貴重なものである。Librettoとか一切無し。どうせみんな知ってるからええやん、というItalia國民限定の潔いパッケージングである。Maria CallasというとEMIのお婆さんパッケージ写真のイメージしかなかったのであるが、これはさすがに若いし美人である。これで歌が凄いのでまさに無敵である。Viscontiの舞台もかなりイケてる感じである。映画フィルムで殘っていたらどれだけ素晴らしかったであろうか。
針を下ろすと、(評判の悪い)CDで聞いていたお馴染みの序曲がなり始めたのであるが、聞いているとどうも違う。何が違うのか暫く分からなかったのだが、概ね以下が言えるのではないかと考える。
- 音が分厚い。特に人の声の音域が強い
- Orchestraがこもって聞こえる。ついでに拍手等もこもって聞こえる
- surface noiseぽい音がかすかに聞こえる。が、LPのパチパチ音もあるのであんまり気にならない
- たまに音の歪みが入る。これはテープ回転のムラか
LPで聞いたらよく分かるのだが、どうも舞台の上に歌手に向けてマイクを置いていたか、もしくは舞台の上の幕の内側(歌手の真上に)マイクを吊して録音した感じである。だから歌手の声は良く聞こえるのだが、orchestraや拍手はこもって聞こえるのだろう。子細は不明であるが・・・
で、私の大好物であるTraviata第一幕を聞き終わった後の感想は「もの凄く素晴らしい、というか他の歌手の録音が全く聞けなくなったどうしてくれる!!!」である。本気で泣けてくるくらい素晴らしい圧倒的な声の圧力。全篇を通して聞くと、最盛期のCallasやBastianiniが良いのは当然としてStefanoがこんなに凄い歌手だとは思わなかった。声楽をかじった身としては声の音圧の善し悪しくらいは聞き分けられると思っている。このちょっとしたところに歌手は身を削って頑張っているわけであり、それが素直に聞けるのは本当に嬉しい。StefanoはLa TraviataやLa Bohemeとかがピッタリの軽めのtenore liricoのため、重いverismo drammaticoが要求されていた時代には不遇だったのだろうと勝手に想像する次第である。同時代のMario del Monacoとか凄すぎるしね・・・
このCallasとStefanoの掛け合いを聞くと、この連中、無限に声が出るんじゃないか?と本気で思えてくる。Verdiのoperaの主役はあくまで歌手であるので、orchestraがスカスカなのは別に良いのであって、声が全面に出てくるこの録音は、実は全然OKなんじゃないかとも思えてくるから不思議である。というか私は全く満足である。これ以上、必要なし。
一応確認のため、比較的まともに調整済みの『歌劇場のマリア・カラス』付属CDの同じくLa Traviata 1955年盤の第一幕最終Aria “E sterano, E sterano…”を再度再生してみたが、オーケストラが比較的まともに聞こえる代わりに、主役の声が痩せて聞こえてしまう。歪みとかsurface noiseとか無いのはいいのだが、これでは本末転倒であることよ、と嘆いてしまうくらい、Cetra盤に分がある。
ちなみにこのCetraであるが、Maria Callasの伝記によく登場するあの「チェトラとの契約が云々で録音が・・・」のCetraである。このCetraという会社についてはItaliaのWikipediaに記載があった。イタリア語は忘れて久しいのであんまり読めないのだが・・・一応英語に翻訳して読める。
http://it.wikipedia.org/wiki/Cetra_(casa_discografica)
さてCDで現在発売中のものはEMIから出ているのであるが、どうもWeb上の噂話としては、やっぱりEMIはこのオリジナルテープを保持しておらず、どこかから借りてるぽい、という事である。恐らくCetra(今は無いぽいのでその吸収会社?)が保持しているのだろう、と推察するわけである。
とまあ、簡単ではあるが以上「LP初盤」と「CD再発盤」とのどっちがいいか、という蒐集家の永遠のテーマについて、「やっぱりLP時代のはLPの方がいい、原産国の方がなおいい」という、当たり前の結果に終わってしまった。我が家の激安システム(Speakerだけ小型のTANNOY)でもすぐ分かるくらい違うので、もっと凄いシステムだとよりはっきり分かるのだろう。
しかしまあ、CDが登場した30年くらい前に喧伝された嘘を吹き飛ばすくらい、LPの音響的素晴らしさは認めざるを得ない。SACDの再発盤もLPにどんだけ近づけたかとかいう悲しい評価基準だったりする訳で、やっぱりその時代のはその時代ので再生すべし、である。
このLPを聞くまでRenata Tebaldiのが好きだったのであるが、物足りなさすぎて聞けなくなってしまった。良く引き合いに出される1958年録音のCallasのも、もはや無理。本LPの破壊力は相当なもので、究極のTraviataを手にしてしまったが故の悩みも尽きないのであった。もっと凄いの誰か教えて!!